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食うたらあかん!病気になる! [礼節も人のうち]

某大企業の食堂の厨房にいたときのことです。
といっても調理なんかをしていた訳じゃありません。
ある依頼で行って昼どきに立っていただけですが。

いつも肩で風を切っている男がいました。
まだ30代でしょう!
人よりなん十年も早く出世しているみたいです。

その男が動くと人垣が割れます。
モーゼの十戒の海が割れるように!はは。
不必要に?ちんぴら然と威張って歩くからでしょう。
父親ほど年上の部下がコメツキバッタをしています。

混んでいてもその男が座ったテーブルには
誰も敬遠して寄りつきません。

その日もひとりガツガツ食べていた男が
突然!大声をあげました!

「これはなんだぁ!?」

ははは!
ほうれんそうの胡麻和えに
絆創膏が入っていたのです!
よりによってそんな男の皿に!ははは。

食堂の責任者が
泣きながらコメツキバッタをしています。
食堂はケータリングの会社が運営しているのです。

男は許しません!
「総務部長を呼べ!」
「すぐ業者を入れ替えてやる!」
並みの部長くらい呼びつけられるほど
エラくなっているようですが
弱いものいじめは得意のようです。

困りましたね。

みんなが黙って思案顔の中
厨房の隅で洗いものだけしているパートのおばあさんが
体の割りには不似合いに大きなゴム手袋のまま
ひょこひょこ出てきました。

どなっている大男は赤鬼のようで
おばあさんは一寸法師みたいです。

“ X X くん!いつも元気やなぁ!”

ひぇ~っ!赤鬼さまに「くん」づけです!
出入りの業者の!しかもパートのおババが!

「こ!こんなもんが!」
え!?
急に!赤鬼はトーンダウン?!
明らかにひるんでいます。

“ く~たんか?!”

「い、、、いいや!」

“ そんなもんくぅたらあかんで!ビョーキになるで ”
“ ほうれんそうだけくぅとき!”

おばあさんは男から絆創膏をひったくって
静かに自分の持ち場へ帰りました。

じきに赤鬼も精気を失って出て行きました。
やれやれ。

その昔!おばあさんは
自信をなくして落ち込んでいた新人時代の赤鬼に
母親のように接し!叱咤激励していたらしい。

誰もいない夜の食堂で
残りごはんで作ってもらったおにぎりを
その男は泣きながら食べていたといううわさ。

おばあさんは
いつから勤めているのでしょう。
相当年季が入った人でも自分より前からだといいます。

「こんにちは」と私がいうと
“ ごくろはんです ”とだけ小声で答えてくれる
いつも大きなビニールの前掛けと手袋姿の
職場のヌシでした。
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