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石上露子の寺内町子守唄 [猫も歩けば棒立ち]

石上露子(いそのかみつゆこ 1882 ~ 1959)の自伝に
子守唄がありました。

  富田林の さか屋の井戸は
  底に黄金の 水が湧く
  一に杉山 二にさどや
  三に黒さぶ 金が鳴る

河内の富田林市(とんだばやしし)の
寺内町(じないまち)の子守唄。

この町は
450 年前からときが止まっているかのよう。
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(材木商だった奥谷家 油を扱っていた東奥谷家)

寺内町 500 戸の建てもののうち
180 戸は昭和初期以前のものだとか。
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(左 酒造業だった葛原家 右南葛原家)

1668 年の記録では大繁盛の商家だらけ。
51 職種 149 店舗があり
富が集中していたようです。
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(左 酒造業だった橋本家 右 木綿商だった木口家)

その中で町一番の大家が子守唄にあるように杉山家。
酒造業をはじめ
たくさんの事業をしていたようですが
今も町一番の古い家として建てものはあります。
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ちなみに 2 番の「さどや」は仲村家。
やはり酒造業。
現存しています。

3 番の「黒さぶ」は屋号「黒山屋」
木綿を扱う田守家のこと。
杉山家につぐ古い建てものが現存しています。
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(右手前 田守家 左向こうは油屋だった杉田家)



繁栄した町の
そのまた 1 番の富裕な家の長女として
石上露子!本名杉山タカは
明治 15 年(1882 年)生を受けています。

才色兼備とはこの人のような女性。
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源氏物語等の古典的教養はひと通り身につけ
漢籍と和歌は母の素養を受けつぎ
上方舞や箏(こと)には自信があったらしい。
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石上露子研究の第一人者の松村緑は
手蹟の秀麗さ!画技の巧みさ!に感嘆しています。

大阪の女学校にも行っています。



しかし!かの女はこんな詩も残しています。

  一日でもいゝ 一ときでもいゝ
  お嬢様の様な身になつて見たいと女達は云ふ
  おまへたちは太陽のかげを見てゐない
  小鳥の涙をしらうとしない
  おまへたちは おまへたち
  わたしは わたし
  絹いとも 木綿糸も
  ぬひ辿る針目の幸を誰れが知らう

伝統ある家があります。
大金持ちなんです。
大勢の使用人がいます。
だから絶やせないためか大家族が形成されます。

でも!家庭はないのです。
複雑なつづき柄がからみあって
あるのは別れの寂しさだけで
安住の場所がなくても動けないのです。

露子は恋をしても動けなかったのです。

旧民法下
法定推定家督相続人たる露子は
嫁ぐことができないのです。

動けば「家」が瓦解!
大勢の人が路頭に迷うのです。



大家族の軋轢(あつれき)の果て
母は追い出され会うことを許されず
17 歳の妹は嫁がされ!まもなく妊娠して死にました。

  かへりみの わが影さむき 古壁に
  夜すがら秋を 歌ふ蟋蟀(こおろぎ)

  十とせへて やつれまた似る 子が影や
  涙の母の こもる小鏡(こかがみ)

心にずっと影ばかり。

結婚生活も悲惨なものです。
婿養子の夫は
杉山家の大半の財産を喪失させた才覚のない人なのに
外にこどもをつくるのは上手だったり。

影は生まれ落ちたときからのさだめ。



石上露子というと
だれもが「小板橋(こいたばし)」を口にします。

  ゆきずりの わが小板橋
  しらしらと ひと枝(え)のうばら
  いずこより 流れか寄りし。
  君まつと 踏みし夕に
  いひしらず 沁みて匂ひき。
      
  今はとて 思ひ痛みて
  君が名も 夢も捨てむと
  なげきつつ 夕わたれば
  あゝうばら あともとどめず
  小板橋 ひとりゆらめく。

かの女の若いころの作品。

詩心のない私にはなんだかぼんやりした印象ですが。

かの女が自ら箏を弾きながら
この詩を歌っていたようなことを
長谷川時雨が書いています。

歌詞としてメロディをつけるのなら?!
ああ!それなら!?
深い思いが感じられますかも。



ま!だれも
自分の決心で生まれてきた訳じゃないですよね。

  あきらめに 似たる月日の はてに見る
  我が心さへ 恨めしき今

由緒ある貧乏人に生まれてきて
伝統も蛍光灯もLEDもなく
よかったのですよね!あたしゃ。

毎日好き勝手に恋をして
ときどき不倫もやっつけて
それでもウワサになるほど世間に相手にされず。
喜びを分かち合うこともなくひとり占め
悲しみを甘受してひとりで背負い
白昼に高笑いしたり!夜中に大泣きしたり。
自由だぁ!

友人のいないのだけは唯一!露子と共通ですがね。
そんなもん!いらないやい!

生まれてきただけで幸運。
生きているだけで丸儲け。



(敬称略)
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