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稲垣足穂の彌勒を観た [活動写真]

人さまに日常の食事風景を見せることは少ない。
いや!
私を育ててくれた祖母なんかは
人さまに日常の食事を見られることは
恥ずかしいことだと思っていたことでしょう。

古来!フツーの日本人は電車の中や
往来で歩きながらモノを食べたりは
しないようにしつけられていたはず。

排泄(はいせつ)行為とか
閨房(けいぼう)の睦言(むつごと)とかと同様
主として本能的な行為を人さまに見せることは
恥ずかしいことだと思っていたはず。

今でもそんな羞恥が残っているのが日本人だと
信じたい気持ちはありますが。



「わが家の夕めし」という古い本が手元にあります。

アサヒグラフに
昭和42 年(1967)から 54 年(1979)まで
掲載された記事をまとめたものらしい。

「普段の夕めしを見に行きます」といわれて
人はどうするのでしょう。

多少は緊張することでしょう。

大いに緊張する人の方が多いかも。

それで大いに演出をすることになります。



ここには登場しないけど
ある有名プロ野球選手の奥さんは
料理がまったくできないので
そんなときには
こった料理を他人に作ってもらって
自分の手料理だと偽って
並べていたと聞きました。

その家を笑う資格がないような
食卓も写されているようです。
どう見ても普段の食卓風景ではないような。

張り切って奇をてらった演出を考える
まるで私のような人もいるのでは。

作家の森敦はカップヌードルだけ。
作家の遠藤周作はめざしと漬けものだけで
「見栄を張って撮影用にごちそうだ」といっています。
作家の物集高量は
「普段はこんなものは食いません」と
わざわざ断りながらざるそばだけ。

その中で印象深いのは
稲垣足穂(いながきたるほ 1900 ~ 1977)の食卓。

夫婦でビール 1 本。
ごはんもつまみも肴もありゃしない。
ビールひとり半本だけ。
それがその日の夕めし。

食べることは無頓着で嫌いだとか。

勉強嫌いで!小説嫌いで!
常識の欠けたまま生き恥をさらしている私は
稲垣足穂という名前をそこで初めて知りました。



陰間(かげま)とか男色(だんしょく)とか
衆道(しゅどう)とか
調べるつもりもないけど
暇なのでなんとなくたどって行ったら
三島由紀夫や南方熊楠あたりに
着いたことがあったような。

その向こうにぼんやりと
稲垣足穂の尻尾が見えたような気もしました。

一応!稲垣足穂の著(あらわ)した
「南方熊楠稚児談義」やら
「A感覚とV感覚」やら
「ヰタマキニカリス」やらを
手に取って見たのですが
私の日本語の範ちゅうではありませぬ。

最初のページから面白くなくて
理解に苦しみ
みんな最後まで読むこともなく投げ出しましたが。

復唱しますが
たぶんに私の教養の欠如と
小説に入り込めない性質が
そうしているに違いないだけで
かれの著述に
ケチをつけているのではありませんよ。



私には不可思議というより難解なだけの
その稲垣足穂の小説を
映画化したものがいるとか。

すごいですね。

CGなんかが簡単に使える時代ですから
アイデアをしぼれば可能かも。

遅ればせながら
映画「彌勒 MIROKU 」を観に行きました。

原作の「弥勒」は読んだことがありません。
映画のタイトルは「彌勒」だったのですが
小説のそれは「彌勒」か「弥勒」かも知りません。
読んでも私には分からない小説でしょうけど。

13 歳の少年が 5 人。
これが可愛い。
可愛いだけじゃないですぞ!
妙に色気があります。

ああ!
これが稲垣のいう衆道の景色なのでしょうか。



違いますね。

この少年たちを演じたのは
京都造形芸術大学映画学科の女子学生なんですね。

女子が男子を演じて
こんなに色気のあるものですか。

余談ですが
宝塚歌劇の男役の演じる男は
「男」じゃないですね!私の感覚では。
あんな化粧と風体と行動をとる男なんて
現実にはいませんよね。

異次元の気持ち悪い美しさ。
キモ可愛いくて?!ファンが殺到するのでしょうか。
偏見ですね!ごめんなさい。

この映画の女子学生が演じる男は
「男」なんです!
衆道の心得がないので残念ですが
その気のある人は興奮できるはず。

それだけでもう
稲垣ワールドに
一歩入ったようなものじゃないですか。



映画はモノクロです。
カット割りと編集が
その昔の
モノクロばかりの時代の映画に似ています。
そんな気がするだけですが。

ストーリィはなんなんでしょう?!
大きく胸躍る展開や
腰が抜けるようなどんでん返しもありません。



そもそもなにが「弥勒」なのか。

彌勒菩薩はあはれなり
天人大會の前にして
昔の佛のありさまを
文殊に問ひつつ 説(と)いたまふ

後白河法皇(1127 ~ 1192)集成の
梁塵秘抄にありましたが。

弥勒菩薩は真の「仏さま」なんですか。
将来!如来になる「修行仏」なんですか。
如来にならなければならない定めにあるのですか。

仏教を捨てた(捨てたい?)ものに
論じる資格はないでしょうけど。



館内が明るくなっても 10 秒くらい
だれも立ち上がらなかったので
私も座っていましたが。

たいてい!ストーリィが終わって
エンディングの
クレジットタイトルなんかが流れ出すと
客は帰り始めるのに。

妖しい映画でした。



(敬称略)
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