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お葬式 高速公路出入口 [はなしのはなし 食えぬ梨]



母が亡くなったとの知らせ。

新型コロナウイルス禍もあって
10 年ばかり会っていませんでしたが。

「親不孝ものめ!

しょんべん小路の吹きだまりの奥の
しけた居酒屋の隅で
年には不足のないおね~さん方に
叱られたことがありますが。

反論すれば
てんで勝手にしあわせを追及するほうが
エネルギーのムダが少ないのでは。

イリオモテヤマネコの母猫は
子猫を “猫可愛がり” します!猫ですから。

ある日!突然!母猫は子猫を
パンパンパンとたたきます。

猫が豹変します。
ヒョウだってネコ科です。

子猫はけげんな顔をします。
が!母猫は重ねてパンチをくりだします。

子猫はそのときがきたことを知り
一目散に走りだします。
2 度と振り返ることもなく!去ります。

振り向かない別れが
双方最善のしあわせなのです。
干渉しあえばいいこともあるけど
軋轢(あつれき)も生みます。

いいとこ取りだけはできません。

「あんたはヤマネコか!?
「霊長類はそんなことはしないの!

「人間って霊長類なの?

「あんたは爬虫類だぁ!



ともかく大変です。
父のときのように
分不相応な大きな(!)葬儀を
しなければならないのでしょうか。

「家族葬にします。

わが親族を仕切っている実妹が宣言します。

ああ!よかった。
でも!油断してはなりません。
おどけた口調で探りを入れます。

「そんで!ひとり
「百万円ほど用意すればいいの?

「いらない。

母は葬式代を残していたのだそうな。

「おカネがあまっているのなら。

あまっていません!
じぇんじぇんあまっていましぇ~ん。

「野の花でも段取りしてくるか
「お茶菓子でも買ってきなさい。

どうでもいいことですが
どうして妹は
私に上からものをいうのでしょう。

実弟がいいます。

「それは社会的信用力と金力と
「行動力と思いやりの全部に
「大きな差ができているからだよ。

ぐうの音もでません。



「家族葬なのにこんなに呼ぶの?

「おばあさん(母)を親のように
「慕ってくれていたひとはみんな家族です。

従姉(いとこ)もいいます。

「私は年に 2、3 度しか
「会いにこられなかったけど
「2、3 か月おきに
「シフォンケーキを
「持参していたひともいるよね。

だれだ!そんな生意気(!)なヤツは!

重ねていいます。

「あんたは実の子じゃないの!
「この親不孝もの。

ここでも袋だたきにあいそう。



「声をかけないのに
「悔やみにこられたひとの対応は
「あんたにまかすから!しっかりね。

へ?!

「香典は丁重にお断りすること。
「重ねて差し出されても返すこと。
「3 度目に押してきたら!受け取ること。

は!?

どうしても置いて帰るひとがいるそうな。
そんなひとはどこにでも構わず置くとか。

ある家では
玄関先のサツキの上に置かれたそうな。
後からきたひとがその上に置いて
垣根が香典置き場になったとか。

ひぇ~!
すごい町じゃのぉ。



読経が終わりました。

「お通夜!頼みます。

父のときとおなじになりました。
ま!これも私の親孝行でしょうか。

「あの!お酒は?!

まったくアルコールがないのです。
父方も母方も大酒飲みだったのに
だれも飲まない一族になっていました。

甥(おい)がいいます。

「コンビニに行ってきます。

「新ジャンルのビール(?)でいいから。
「サントリーでいえば金麦とか。

甥は「プレミアム・モルツ」を!
それも!その中で高いほうのビールを
かかえて帰ってきました。

「おばあちゃんのために!
「いいビール飲んでください。

さすが!妹の子。
思いやりがあるのですね。

さて!することがありません。

たいてい!時間があれば
どこでも徘徊しているのですが
お通夜ではそうもいきません。
たてつづけにビールをあおるから
おしっこに行くぐらい。

警備のひとも帰って
大きな斎場でひとりになりました。

隣の部屋のお通夜かお葬式は
みんな家に帰っています。

斎場の広い通路にペタペタと
自分の足音だけが響きます。

あまり気持ちのいいものではありません。



道具も機器も本もなにもないから
五七五でも頭の中に作ってみますか。

「小春日が 暮れてひとりの 母の通夜

エログロがなければ
私の句らしくないですね。

先日!あるお大尽の
ご母堂が亡くなられました。

満 100 歳だったそうです。

辞世の句が

「夜長なり 落つる木の実を 数えたり

家族は刀自が
俳句を作ることを知らなかったそうな。

おそらく 90 歳を過ぎてから
新聞に投句していたらしい。

上掲の句は新聞に載った最後の句だから
辞世の句と私が勝手に決めたのですが。

満 100 歳のときには

「過去ありて 未来ありけり 春近し

が!載っているとか。

句がすなおです。
奇をてらわない!
けれんみがないのが俳句かも知れません。

「母の通夜 こおろぎも寝て 朝まだき



夜が明けると
妹がおにぎりとみそ汁を持ってきました。

「これ!なくさないように。

生命保険証書です。
母が私を受取人にしてかけていました。

一瞬!目頭が熱くなりました。
親不孝ものは 5 秒くらいですが。

「ええっ?!こんなにたくさん!

たぶん!まっとうな家では
タンス預金ぐらいな金額でしょうけど
尾羽うち枯らしているものは
腰を抜かしかけました。

「みんなで分けようよ。

「みんなの分!それぞれあるの。

「おなじ金額なの?

「いやらしいことをいうんじゃない。
「おばあさん(母)が
「差をつけるはずがないじゃないの。

証書がヨレヨレして!
文字がにじんでいます。

私の眼が濡れているのじゃなくて
水害にあったのだそうな。

「あんた!台風で浸水したとき
「心配のでんわもなかったよね。

「ええ!水害のことなんか!
「今!初めて聞いたよ。

「ニュースで流れていたでしょうが。
「この!親不孝もんが!



「喪主がヨロヨロしているから
「喪主の代行をすべてすること。

喪主の弟は大病をした後で
杖にすがって!ヨロヨロしています。

「あんたは口が減らないから。

それはあなたもいっしょ!
きょうだいは悪いところがおなじ。

「挨拶は要求があればみんなすること。

「あの!それは
「元・宝塚の “ 風さやか” のように
「強めに抑揚をつけるほうがいいの?
「人間国宝の “ 桂米朝” 口調がいいの?

「フツーがいいの!
「短くね。
「ウケねらいはするんじゃないよ。

よくもまぁ!ぽんぽんいうものです。
長幼の序はないのかよ。
聞いてもムダですね。



火葬が終わって!まだあたたかい遺骨を
喪主の代わりに抱いて檀寺に行きます。

初七日の法要をお願いするのです。

お寺さんがあわてています。
数人で行くと連絡していたのに
みんなついてきたからです。
いいひとばかりですね。

「今日のあいさつには
「どれもスケベなこと
「いいませんでしたね。

耳元で甥が冷かします。

「そんなこといってごらん
「あなたの母親に殺されるよ。

長い 2 日が終わり
寺の境内に出ると
つるべ落としの太陽が沈むところでした。

「お墓に参って行く?!

妹がいいます。

わが家の墓地はお寺さんから
10 分も歩けば行けます。

「もう日が暮れるから!また。

「早いうちにお墓を見に行きなさいよ。

墓地の石垣が崩れそうだといいます。
付近の墓地はどこも整備・改修していて
わが家の墓地だけが
無縁のようになっているとか。

「それも自然に還ることだから。

「なにをのん気なこといっているの!
「崩れた石や!先祖のお骨が
「道にころがりでたら
「笑ってすまなくなるよ。

「あ!あの保険金を出すから直してよ。

赤貧洗うがごとし!
おカネは 1 円でもほしいけど
ここはやせがまんしても
襟をただすときかも。

「ま!納骨のときにはなしあおうよ。



「家の処分を考えておいて。

妹は嫁いで姓を替えているのに
実家のあれこれを心配しています。
すまないことです。

「家は売ろうよ。

「売れないよ。
「売りに出ている古い家!
「うちより条件がよさそうなのに
「まったく売れていないよ。

更地(さらち)にすれば
庭も畑の足して少々面積がとれるから
少しは売りやすいかも。
それはそれで
古家の処分費が半端なくかかりそう。

ただでいいから
ほしいひとにあげるほうがいいような。

「ご先祖」は小さな高瀬舟を 1 艘引いて
この地にきたのだそうな。
百数十年前のこと。

引きながら川をさかのぼるご先祖の
モノクロの絵が脳裏に浮かびます。

そんな絵!見たことがないのに。

身を粉にして働き
爪に火をともして貯めて
今の家の敷地を入手したようです。

それを処分するとは!
それに墓地まで放棄しかねないとは!
なまけものの子孫ばかりです。

「一番の不肖の子孫は、、、。

「みなまでいわなくても。
「みんな!あたいが悪いのよ。



「空港まで乗って行きませんか。

レンタカーの
従弟(いとこ)たちや甥たちが
声をかけてくれます。

「新幹線の駅まで送るよ。

従姉妹(いとこ)たちは
タクシーを呼んでいます。

飛行機にも新幹線にも
乗れる身分ではないのです。
ひとりバス停に行きます。

あ!?
切符売り場がなくなっています。

お門違いかも知れないけど!
周囲にだれもいないので!
鉄道の駅まで聞きに行きます。

「スマホで
「チケットを購入してください。

スマホを持っていません。

バスがやってきました。

「空いている席に座ってください。
「予約のひとがきたら替わってください。

肩身の狭いこと。

祖母の葬式のときに
携帯電話を持っていたのは
私だけだったような。

父が死んだときには!さっそうと
パソコンなんぞをかかえていたのに。
今では普及しているなんの機器もなく
世間から取り残されて久しい。



細切れでも!
いつでも寝ている生活なのに
この 2 日!あまり寝ていません。

でも!全然寝られません。

バスのつぎの停留所の表示も
4 か国語になっていますか。
blog91.jpg

隔世の感があります。

「インター」ですか。
「インターチェンジ」の略ですか。

思えば
コンビニだのマックだのコロナだの
なんの法則も脈絡もない略し方で
通じる日本はすごい。

単一民族の
以心伝心のなせるワザでしょうか。
この国に産んでもらってよかったような。
感謝しましょう。

「インター」は中国語では
「高速公路出入口」ですか。

なんの役にも立たないことを
ただ!めぐらすだけでどうします。

実(じつ)のないことだけに終始して
恥をかきつづけて幾星霜。
やっぱり私は
故郷にも先祖にも思い出にも
後ろ指さされて生きて行くのが
似合うようです。

まぁ!いい。
人間到処有青山。
(じんかん いたるところ せいざんあり)





(これはフィクションです)
(モデルはありません)
(敬称略)
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