SSブログ

さるかに合戦 さるは負けない [はなしのはなし 食えぬ梨]

通称・風の谷は
急峻な崖にはさまれています。

西の崖に沿って
北から南に川が流れています。

東の崖沿いには細く長く
田んぼがつづいています。

谷の底ですが
南が開けているので
“かに族” が稲作をしています。

崖の上の奥には “さる族” が住んでいて
住居を隠れるように造っています。

さる族はリスやウサギを狩り
木の実を採集して暮らしているようですが
年貢も納めなければ使役も出さないので
全容がまったく分かっていません。

かに族とさる族は大変仲が悪いのです。
文化が違います。
常識が違います。
なんといっても正義が違うからです。



「お奉行さま!
「年貢に納める籾米(もみごめ)を
「10 俵盗られました。

「盗賊は崖の上のさる族にございます。
「成敗してくださいませ。

『さる族は知らぬ!存ぜぬ!といっておる。
『日ごろ!おまえたちが差別し!
『イジメるからであろう。

「差別され!イジメられているのは
「おらたち!かに族でございます。

『わが藩内のどこでも
『差別を受けているのはさる族だが。

「それは数の論理では。
「他の地域では圧倒的にかに族が多いから
「さる族が劣勢なんでございましょう。

「この谷ではさる族の天下です。
「西の崖の上には
「さる族の集落がふたつもあります。
「それは隣の藩の村ですが
「こことみっつで互いに連携をとり
「おらたちを襲ってきます。

「収穫どきになると襲来して
「矢と石を雨あられと放ち
「けが人は出るは!焼かれる家はあるは!
「毎年!被害が甚大でございます。

『殿は最近ますます神仏に帰依があつく
『さる族とかに族は仲よくするようにと
『ご命令あそばした。
『困ったのぉ。
『その盗られた米をいくらか
『拙者の懐中から負担するから
『そのはなし!いったんおさめてくれぬか。



『殿の意向でもある!
『崖の上と下!
『なんとか仲よくしてくれぬものかのぉ。
『今度の秋祭りに
『さる族を呼んだらどうだろう。

「祭りにはみなでカネを出し合って
「催行しております。
「さる族にふるまう余裕はありません。

『拙者の懐中から少しおそなえをするから
『なんとか参加させてやってくれ。
『ああ!わがふところはやせるばかりじゃ。

祭りの朝。
奉行所の通達があり
さる族がぞろぞろ降りてきました。

神社に幕が張られ
おそなえの卓が並べられるのを
さる族たちは遠くから見ております。

新米と芋などの農産物が積みあげられ
餅の箱が運ばれてきます。

今年は奉行の寄付もあり
例年より多くの酒瓶がそなえられたとき
先頭にいたさる族の男が走り出し
酒瓶を小脇に 2 本抱えるやいなや
一目散に逃げだしました。

それをきっかけに
さる族が押し寄せてきて
おそなえも餅も根こそぎ奪うありさま。

賽銭箱はひっくり返し
幕ははがし取り
卓はかついで
神社の鈴まで引きちぎって
遁走してしまいました。

目前にあるものを盗るのは
狩猟に生きるさる族の常識なのです。
罪の意識は皆無です。
かれらの立派な正義なのです。

『ううぬ!許せん!
『拙者の顔に泥を塗りよって!
『あした!役人を集めて村を焼き払いだぁ!



しかし!
焼き討ちの成敗は行われませんでした。
やはり!
慈悲深いお殿さまがお止めになりました。

『こうなれば自然に消滅させるしかないな。
『自然にそうなったと仕組まねばならん。
『時間をかけてこらしめてやろう。
『協力して長期作戦と行こうじゃないか。



再びの秋がきました。
稲刈りが始まると
さる族の姿が
ちらちらと見えるようになりました。
偵察がきています。

脱穀が終わりました。

「ぼちぼち!だな。

それは突然!起こりました。
屈強なさる族の戦士が 20 数人!
石を投げ!矢を放ち!
なだれこんできました。

川向うの隣の藩のさる族の集落は
なにかの逆鱗に触れたらしく
焼き払われています。
その残党がこちらのさる族に合流したらしく
戦力が増強されています。

「さからうな!
「石や矢に当たらないように隠れろ!
「火矢は協力してすぐ消し止めろ!

さる族はまっすぐ共同倉庫に向かい
錠前を破壊し!飛び込んで行きます。

『うぎゃぁああ!

たちまち!数人が虫の息!

春の終わりに小さなスズメバチの巣を
ふたつとめておいたのです。
巣は 3 尺を越えて育ち
ハチの数が数万匹になっています。

でも!さる族は強い!
刺されながらも仲間の屍を踏んでも
米俵をかついで逃げ出すもの多数。

米俵には土を詰めているだけですが。

村はずれの急坂には
さる族の応援部隊が待機していました。
獲物をリレーして運ぶつもりです。

息絶え絶えで
米俵をかついだ男たちがやってきました。

「それ!今だ!

かれらのさらに上部に
かに族が隠れていたのです。

かねて用意の牛糞をまき散らします。

家畜のないさる族は驚いて
すべって進めません。

「爆竹をくらえ!

長崎から取り寄せていた爆竹を投げつけます。

かに族はそれぞれが
竹やりを突き出して追い落とします。

集落のほうからも
爆竹と竹やりのかに族が
ときの声をあげて追いかけてきました。

今まで攻撃するだけで
守備に回ったことがないさる族たちは
勝手が違い!なすすべもなく
どんどん追い詰められて
村はずれの崖下までやってきました。

そこはひと月かけて掘った大きな蟻地獄。
さる族 50 人ばかり
全員落とされてしまいました。

「臼だ!

崖の上には臼ほどの石を用意していました。
それをどんどん落としました。

「お奉行!やりました。

『手はず通りだったな。
『倉庫に倒れたいるやつらもここに放り込め。

総出で蟻地獄に土砂をかぶせます。
大きな土盛りができました。

『よいな!われわれはなにも知らない。
『なにも見ていない。
『塚の上に “泥棒は犯罪だ” と
『きざんだ石をのせておこう。



奉行は戦闘能力が激減したさる族を
山から降ろして荒れ地を貸与しました。

慈悲深いお殿さまは昔の
「俘囚(ふしゅう)制度」を
まねるように指示されています。

捕虜とか反逆者とか犯罪者とかの異端者を
更生させようとする試み。

『開墾に精を出し
『良田を造り
『早く米の収穫ができるようにしろ。

『そうすれば “とる” ことが正義の
『常識も改まり
『差別されることもなくなるであろう。

『かに族からボランティアで
『開墾や農耕の指導にこさせよう。

『米が採れるまでは
『食うものもないだろうから
『城内の備蓄米を支給してやろう。



それから 3 年経ち 4 年経っても
一向に開墾が進みません。

5 年過ぎても米が 1 粒もできません。

「お奉行さま!やつらは
「朝から白いごはんを食べて
「ごろごろしております。

「あれはおらたちが
「頑張って納めた米じゃないですか。
「おらたちは
「年になんども白いごはんにありつけず
「雑穀を食べて働いているのに
「やつら!朝から
「酒まで食らっているじゃないですか!

『けしからん!
『おい!おまえたち!
『そんなことをしていたら
『いつまで経っても差別されたままだぞ!
『悲しくはないのか。

「ずっと差別されたままがいいのです。

『なんだと?!

「差別がなくなれば
「米の支給がなくなりますから。
コメント(0) 
共通テーマ:日記・雑感

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。