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胸が切なくて [はなしのはなし 食えぬ梨]

「だんさん!胸が痛くて
「苦しくて!切ないのです。

あ!おたけ!少し落ち着きなさい」
いきなりなんですか」

「さいわい!今!
「ごりょんさん(奥さん)はお出かけです。
「だんさん!どうぞさわってみてください。

いや!あのね」
たしかにわたしは女性や乳房は大好きや」
しかし!おたな(店)のもんとは」
関係したことはないのじゃ!けじめとして」
おカネで解決でけるとこへは行くけどな」

「わたしは覚悟してきました。
「この願いが聞いていただけないのなら
「出代わりさせていただきます。

大坂(おおざか)の商家では
使用人は
3 月 5 日と 9 月 5 日に
出代わりといって
主家を替えたりしていました。

もちろん!どちらかが頼んで
継続奉公することもできます。

いや!それは待っておくれ」
先々代から 50 年うちにいてるおとらが」
おたけほど裏表がなくて」
よく気がつくこは今までいてへんかったと」
ほめておるのや」

「それでは!どうぞ!わたしの乳房を、、、。



「だんさん!たへいでございます。
「ちょっとよろしゅうございますか。

おお!番頭さんか」
入って!入って」

「あ!あぁ!これは失礼いたしました。
「出直してまいります。

いや!いや!失礼でもなんでもないのや」
なんにもしてへんのやで」

「ええ!ええ!
「わたくしはなにも見ておりません。
「このおたなには先代より 30 年
「長く奉公させていただき
「とりえはただ口がかたいことだけ。
「ご安心ください。

いや!いや!番頭さんには」
充分!感謝しておるが」
その!あの!これは違うんや」

「ではまた!のちほど。

ああ!誤解してないやろか」



「だんさん!早く。

ああ!胸をはだけるんじゃありまへん」

「お日さん西からあがっても
「丁稚の給金あがりゃせぬ!あ~こりゃさ。
「犬が西向きゃ尾は東!あ~よいよい。

また!訳の分からんことを歌っとるわい」

「だんさ~ん!だんさ~ん。
「いて参じましてござります。

このややこしいときに」
こども(丁稚)のすけ松が」
帰ってきよったがな」

「あ!こりゃまた!目の毒!目の毒。
「お楽しみで!まいった!まいった。
「しっぽりと!濡れ場でしたか。
「おとことおなごはときとところ知らず。
「いやぁ!めでたし!めでたし。

おまえはなん歳や!」
たいこもちか」
ませたことばかりいいやがって」

「月末に 12 の誕生日がきます!数えの。
「誕生祝いは現金でお願いします。
「焼き芋でもなんでも買えますんで。

だれがやるもんか」
あのな!おたけとはなんにもしてないんや」

「またまたぁ!
「おたけどんの胸元が半分開いてまっせ。
「おたけどんのおっぱいは
「おたな一番の大きさ。
「ひとりじめはだんさんの特権だすな。

なにをいうのや!」
近江屋のだんさんはいてはったか」

「近江屋さんは頼りないから
「お返事を紙に書いてくれはりました。

頼りないのはおまえやろ」
早くそれを出しなさい」

もう!さがってもよろし」
わたしはホントになにもしてへんからな」

「わたいの口のかたいのは
「そこらの丁稚とデキが違います。
「やぼなことは
「あ~するまいぞ!するまいぞ。

満面の笑みで」
歌舞伎調に六法を踏んで行きよったがな」
また!なにかやらかしそうやな」



「だんさん!おたけの一生のお願いです。

分かりました」
それほどの決心なら」
男冥利というものかも」
なにがあってもわたしが責任をとります」

おたけ!おまえはなんといとしいおなごやろ」
もっとこっちぃ寄りぃ」
さ!唇を」

「だんさん!なにをなさいます。
「唇やおまへん。
「乳房だす。
「犬にやられた、、、。

いぬ~!」
ごんたかえ?!」

「だんさんはごんたを散歩させて
「お帰りにならはったら
「お勝手口の松の木につながりはります。

「わたしら女衆(おなごし)が通ると
「ごんたが足などをなめにきます。

「男の人が通っても
「おちんちんを放り出して
「あおむけに寝たまま
「ピクリとも動かないのに。
「女ならみさかいなくかけ寄ります。

「犬は飼い主に似るといいますが。

そりゃ!またなにをいうのや」

「先日!おとらさんの
「腰巻をくわえて引っぱったので
「おとらさん!黄色い声をあげはりました。
「18 娘の災難かと勘違いした
「おたな中の男衆(おとこし)が
「飛んで出てきて!がっかりしておりました。

「わたしが大根の束なんか
「重いもんを持って通るときに
「ごんたが足をなめたり
「股ぐらに鼻先を入れてくるので
「よろけて!お勝手口の扉に
「この大きなお乳をぶつけてしまうのです。

「なん度もぶつけて
「赤くなって!痛いのです。

そりゃ!悪かった!許しておくれ」

「ごりょんさんに申しあげたら
「だんさんが書斎からごんたと
「アイコンタクトをとりはるのやから
「つなぐ位置は
「変えられへんといわはりました。

「それで!今!
「ごりょんさんがお出かけのとき
「お願いにあがりました。

早くいうてくれたらよかったのに」
よしよし!すぐ」
勝手口まで届かないようにつなぎまひょ」



番頭さん!ということや」

「はは!さようで。
「みんなごんたのせいだしたか。
「これは失礼いたしました。

いや!わたしにも責任があったのや」
ところで!すけ松はどうしました?」
たへいどん」
すけ松によくいうておいておくれ」

「承知しました。

番頭さん!すけ松は」
新しいごりょんさんは」
おたけどんに決まりと」
おたな中にいいふらしていました」

「とんでもないヤッちゃ。

隣の備前屋に行ってから」
今!向かいの江戸屋で丁稚を集めて」
おっぱい!おっぱい!というております」

「頭をふたつみっつはたいて
「連れもどしなはれ。

このがきゃ!帰ってこい!」
番頭さんがお呼びや」

「なんで!はたかれにゃなりまへんのや!
「みんなもあの鬼瓦のごりょんさんより
「おたけどんが
「ごりょんさんになってもろたほうが
「おたなが明るく楽しくなる思うてますやろ!

だれが鬼瓦です!?」

「あ!ずるいぞ!もう帰ってきて。
「あ!いや!ごりょんさん!お早うお帰りで。

番頭さん!すけ松を三番蔵に放り込んで」
反省させなはれ」

「わ~い!堪忍しとくなはれ~!
「あの蔵は配達中に大川に落ちて死んだ
「増吉さんのゆうれん(幽霊)出るそうだす。

「反省します。
「反省しました!!はい!今!しました。
「もうすなおな
「可愛らしいこどもになりました。
「2 度と鬼とかいいまへん。

わたしかて」
おたなのために頑張ってますのに」
涙が出ますわ」

「わ~い!
「鬼の目にも涙やぁ!
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