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金魚と添い寝 [はなしのはなし 食えぬ梨]

ホテル「ヤリハッタン」は
従業員の通用口から
客も帰ることができる。

外に出たら 10m ばかりつづく通路があり
その先で細い路地に交わり
路地は民家の陰で公道に接している。

すぐ横に駅がふたつあり!
商店!アーケード商店街!
事務所!住宅!アパートが
ごちゃ混ぜにあり
雑踏に紛れて!ひと目を避けられるので
常連になったものも多い。

その通路から出たふたりだが

「あ!?
「ヤバい!
「向こうから山田がきている!

逃げようがない。

「まりちゃん!奥までもどって!
[あっちに向いて!じっとしていて!

まりちゃんはその山田の妻である。

「ん!?
山田はこちらの顔を認めて瞠目。
そして!かの女の後ろ姿を一瞥して
にっと片笑んで
「あ。
といった。

「そういうこと。
とだけ答えると
「じゃ。
と小さくいって路地の奥に消えた。



「見つかったね。

『大丈夫よ!わたしと気づいてないわよ。

「自分の女房なら分かるだろ。

『あの人!無頓着だから。
『わたしが美容院に行ってきても
『全然気がつかないもの。

「どうしてここを歩いていたんだろ。

『今!暇なの。
『年下の部長をなぐって会社をやめたの。
『当分!失業保険をもらうといっているの。

『この先に住んでいる
『定年退職した昔の上司に呼ばれて
『遊びに行っているのよ!たぶん。

「じゃ!しばらく会わずにいようよ。
「見つかりやすいよ。

『大丈夫よ。
『いつものように会いたいわ。

「ここ気に入っていたラブホなのに。
「ま!どこに行っても
「人の目があるけどね。

『じゃ!うちの離れにきてよ。
『あの人が外出しているかどうか!
『よく分かるからいいじゃないの。



「山田、、くん!あの!飲みに行かないか。
「駅裏の居酒屋の死海が
「昼飲みをしているんだ。

『大川!キミはいいな!フリーターで。

「自営業といってくれよ。
「ま!あんまりクライアントもいないから
「フリーターかもな。

『でも!珍しいな!キミから誘うなんて。

「焼酎のボトルを
「30 本ばかりキープしているんだ。

『なんだよ?それ!

「マスターがカネを返さないから
「ボトルを押さえているんだ。
「飲んでくれよ。

『それならいただこう。
『しかし!キミもやるな!
『まさか!ラブホの前で会うなんてな。
『いいオンナだな。
『後ろ姿を見ただけだったが。

「前から見たこと!あるのでは?

『オレが!?
『だれの?!

『それにだいぶ若いね。
『ウエスト!キュッとしまっていて。

「キミの奥さんくらいだよ。

『全然!うちのやつは
『ハラぼておばさんだよ!
『妊娠もしていないのに!はは。

『ま!キミも今!ひとり身じゃ
『なにをしてもいいけどな。

「ちょっと訳ありなんだよ。

『ん!人妻か?!
『だんなにバレていないのか?

「バレている?

『知らないよ!オレは。
『でも!間抜けなだんなもいるものだ。
『顔を見てみたいものだ。

「鏡!貸そうか。

『なんのために。

「そこで相談だが
「デートの場所に困っているんだ。
「キミのところの離れ!
「貸してくれないか。

『うちの家の離れ!知っているの。

「いつか!おかあさんが住んでいると
「いっていたような。

『そう!おやじが死んでから
『おふくろが勝手に勉強部屋を建てて
『トイレとシャワーをつけて
『静かに暮らしていたんだが
『死んでから!娘の部屋になって。
『娘も大学の寮に行ってしまったからな。

「ホテル代出すから
「ときどき貸してよ。
「その間!この居酒屋で
「焼酎を飲んでくれていたらいいから。

『いいのか!そりゃ!願ったりだ。

「ただ!キミの奥さんにどういうかだな。

『そうだな。
『あいつは異常にカタブツだからな。

「キミが知らないだけでは。

『いいや!不倫や浮気!
『まったく興味なし。
『興味がないばかりじゃなくて!
『虫唾(むしず)が走るらしい。
『そんなドラマにさえ立腹するタチだ。

『ま!なんとか追い出してみよう。



『昼飲みに行かないか。
『駅裏の死海。

「いやよ!昼間から小汚いところになんか。

『歴史好きだろ。
『歴史博物館に行ってみたら。

「今!戦国武将の展示。
「戦国武将には興味ないの。

『動物園のコアラが婚活に行った後は
『人なつっこいゾウガメの
『部屋になったらしいよ。

「あなた!どうしたのよ。
「どうしてわたしを追い出したいの!?
「浮気しているのでは?!

『冗談はいうなよ。
『実は!だれにもいうなよ。
『大川がな!
『かの女と会うのに
『離れを貸してくれというんだ。

「それでどうしてわたしが
「出て行かねばならないの。

『それが秘密の逢引なんだ。
『相手は人妻らしい。

「イヤだわ!そんな関係。

『おまえの一番嫌いなことだな。

「そうね。

『ちらっと見たことがあるけど
『なかなかいいオンナだった。

「そうでしょうとも。

『ん!見たことがあるの?

「ないけど。

『もう前金でホテル代をもらったんだ。

「しかたないじゃないの!
「もらったのなら。

『じゃ!じゃまにならないように
『死海に行って飲むか。

「そんなとこはイヤよ。
「わたしは植物園にでも行くわ。

「あ!そのホテル代!
「わたしももらう権利が
「あるんじゃないの!?
「半分出しなさい。

「それにシーツの洗濯代も。
「わたしが 6 分もらうわ。



「うまくいったわ。

『まりちゃんてすごいね。

「だって!うんと燃えたいもの。

『でも!油断できないね。

「大丈夫よ。
「週に 1 回は会いましょうよ。
「ホテル代は回収するから。



『大川のやつ!
『今日もかの女とお楽しみだ。

『よくつづくものだ!
『オレとおない年なのに。

『かの女!
『ウエストがしまってヒップがぷりん。
『いい体をしていたな。
『顔も可愛いのだろうな。
『見てみたいものだ。

『ん!あいつらの関係!
『オレにはバレているのだから
『会ったってどういうこともないはず。

『お!もう 1 時間経っているな。
『佳境は過ぎたかな。
『でんわしてみよう。

『あ!もしもし。
『取り込んでいたら切るけど。

「いいよ!いいよ。

『駅前のフォーティワンね。
『ソフトクリームの。
『新製品が出ていたのよ。
『赤紫蘇(あかじそ)味の。
『それで 3 個買って!
『今!帰っているところ。
『いっしょに食べないか。

「ああ!かの女!牛乳アレルギーなんだ。

『じゃ!豆乳のと代えてくるから。

「いや!いや!人見知りが強くて
「知らない人と会うと動揺するから
「このつぎ!きっと
「覚悟を決めてから会わせるから。

『そう、、、。



「お!門扉の開く音がする。
「カーテンのすき間からのぞくと
「山田のやつ!もう帰ってきやがった。
「ん!玄関先で
「こちらをうかがって立っている。
「なにか思案しているな。

「ああ!庭伝いに忍び足で近づいてきた。

「まりちゃん!大変だ!
「シャワーを浴びている場合じゃないよ!

『ちょっと待ってね。
『ほてった体を冷やしたら!すぐ行くわよ。
『2 回戦はなめっこ合戦よ!
『つぎもまた!ノックアウトしてあげる。

「大変だよ!
「山田が!抜き足さし足できている。

『え!?

「体をふく暇はないよ。
「早く!はやく!

『下着!どこに!?

「もう!上だけ着たらどう。

『パンツ!探して隠しておいてね。
『窓から出るわ。
『こちら側は
『物置と塀と金魚の池があるだけ。
『行き止まりだから!あの人こないわ。
『すきを見て!主屋にかけこむから。



「しかし!いきなり!
「こんにちはというのもどうかな。
「お楽しみのところにヤボなことだな。

「ちょっとだけ!のぞくだけにしようか。
「ちっ!厳重に閉めてやがる。

「あ!昔!おふくろが
「裏の窓は建てつけが悪いと
「いっていたことがあったな。
「あちらにのぞけるすき間があるかも。

「あああ!

どぼ~ん!

「おふくろも!こんな狭いところに
「池なんか造らなくてもいいのに。
「足場が悪くて!すべったじゃないか。
「背中から落ちて
「金魚に添い寝をしてしまった。

「あ!おまえ!どうしたの!?
「こんなところで。
「頭からびしょ濡れじゃないか。

「ははぁ!おまえさんものぞきにきて!
「池にはまったのか。
「バカだなぁ。
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