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はちかつぎ姫 異聞 [はなしのはなし 食えぬ梨]

15 歳のハナは
下級武士のひとり娘として育ちました。

両親は厳格で!
しかし慈愛に満ちた人でした。

男女区別なく教育され
読み書きなどの素養も身につけて
つましいながら
しあわせに暮らしていました。

それが突然!
父が流行病(はやりやまい)にかかり!
亡くなってしまいました。

母も病気になり寝込んでしまい
たちまち日々の活計(たずき)に困り
ハナは商家の越後屋のこどもたちの
家庭教師に通うことになりました。

母は病床でハナに
「世の中に善人も悪人もいない。
「毒も益もそのときの思いつきだけ。
「人間も動物も草木もみんな
「天から生かされているから
「生きなければならない。
と!さとしました。

それから間もなく母は父の後を追い
親戚もないハナは
ひとりぼっちになってしまいました。



越後屋は妙に親切でした。
家庭教師と
女衆(おなごし)の手伝いということで
商家に住み込むことになりました。

あるとき!
ひとり勉強の準備をしているとき
越後屋が入ってきて
いきなり抱きついてきました。

「いい体をしているじゃないか!
「おれが立派な女にみがいてやろう。
「楽しく暮らそうぜ。

ハナは驚いて家中!逃げ回りました。
さらに町中走りました。

「恥をかかせやがって!

越後屋は怒ってハナの部屋を
老朽化して建て替える予定の
四番蔵へ替えてしまいました。



あるとき!雨あがりの水たまりで
1 匹のアシナガバチがもがいていました。

ハナはそっと拾いあげると
ハチは刺したりしませんでした。

ハナは蔵に連れて帰りました。

ハチは蔵の入り口近くに落ち着き
巣作りを始めました。

崩れかかった蔵ですから
扉にすき間ができていて
ハチはそこから出入りできました。

やがて
10 匹のこどもを育ててしまいました。
そのこどもたちが
妹たちの世話をして
ハチの数がどんどん増えて
巣が大きくなって行きました。

また!突然!越後屋がやってきました。

「女はな!初めはイヤイヤというもんだ!
「そのうち!おまえから
「抱きついてくるようになるさ。うひひ。

好色な越後屋は
全然あきらめてはいないのです。

「ぎゃぁ!

越後屋がひっくり返りました。

頭と頬と指に
アシナガバチが刺したのです。



『だんなさま!
『ハチは夜露!朝露にあたれば
『飛べません。

という番頭のことばにうなづいた越後屋は
水攻めすることを思いつきました。

水の入った手桶を
男衆(おとこし) 5 人に持たせて
蔵に近づくと!たちまち
数十匹のハチが飛び出してきました。
みんな桶を放り投げて逃げました。

逃げ遅れた越後屋と番頭は
鼻や唇を刺されてしまいました。



その日からハナが蔵を出るときには
ハナの頭に 10 匹のハチが
とまっているようになりました。

美人のハナが町を歩けば
色気づいた若ものたちが
声をかけてきます。
すると!すぐに
ハチが飛び立ち!威嚇(いかく)します。

尻でもさわったら
2、3 発食らわされます。

ハナの心が動揺しなければ
ハチたちは静かにしています。

いつの間にか
ハナは「はちかつぎ姫」と
呼ばれるようになりました。



『そのほうに
『たいそう美人の
『はちかつぎ姫と呼ばれる
『娘がいるそうじゃの。

代官がやってきました。

「あのこでございます。

『ほほう!なるほど。

翌日!またやってきて

『ぜひ!わが屋敷で奉公させたい。

代官も越後屋に負けず劣らず好色です。

「どうぞ!どうぞ!
「もともと武家の娘でございますから。
「ただ、、、。

『ハチの巣があるだと?!
『ハチごとき!片腹痛いわ!

代官は勇躍!扉を開けると
たちまち!顔と腕を刺されてしまいました。

『武士を愚弄しやがって!
『ハチなんか
『火攻めに煙攻めでいちころじゃ!

家来衆を総動員して
火をつけた生の杉葉の束をもたせて
蔵の扉を開けると
あろうことか!蔵から風が吹き出てきて
煙は男たちのほうに向いてしまいました。

ハチたちは刺したい放題!

家来たちは杉の束を蔵に投げ込んで
ほうほうの態で逃げます。



蔵に火が着きました。

ハナは蜂の巣を取り
布で包んで走り出しました。

町を抜け!山をひとつ越えたところに
岩壁があり
臼が入るくらいの穴がありました。

その中にハチの巣をそっと置きました。

「ここなら雨露がしのげるでしょう。
「ここで!また!新しい巣を作ってね。

後を追ってきたハチたちも
みんな集結できました。

ハナはその場で頭髪を切り落としました。
もう!ハチがとまれません。

山中の尼寺に入りました。



たいそう美人で教養のある
尼がいるという評判が立ちました。

男たちがお参りするふりをして
細い山道に難儀しながら
やってくるようになりました。

「還俗(げんぞく)して!ぜひわが妻に。

「わが家の嫁に。

あまりにもしつこく大勢くるので
ハナは

「アシナガバチと
「仲よくなれる方をのぞみます。

といいました。

『ははは!ハチなんぞ!ほれこの通り。

「それはミツバチじゃないですか。
「春先のミツバチはめったに怒りません。

『ほれ!拙者なんか!
『こんな大きなハチを握れますぞ。

「それはクマンバチのオスではないですか。
「オスは刺しません。

『余はこの藩の藩主の三男である。
『しもじものもの!さがれさがれ。
『美人はわがものと決まっておる。

『ハチもさがれ!無礼もの。
『こう身分も違えば
『恐れ入ることであろう。

といって!
ぼんくら若君が
オオスズメバチをつかみました。

ハチが身分など知ったことじゃありません。
思いっきり刺したものですから
若君!アナフィラキシーショックを起こし
家来たちにかつがれて逃げて行きました。



ハナがあの岩を訪ねると
大きな新しい巣ができていました。

アシナガバチが喜んで
ハナの体にとりついて歓迎してくれました。

ハナは小さな観音像を
巣の下に安置しました。

頭に 17 匹の
ハチがのっている観音さまです。

眉間の白毫(びゃくごう)にも
ハチがとまっています。

人々は「はちかつぎ観音」さまと呼んで
通るときに手を合わせるようになりました。

「はちかつぎ観音」さまは
今もあなたの近所におわします。
きっと。

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