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まらなしほういち 人形峠の怪 その2 [はなしのはなし 食えぬ梨]

(きのうのつづきを書きます)


(5)


『翔(しょう)ちゃん!どうしたんだ。

「ああ!魁(かい)くんか。

『ずいぶん!頬がこけたじゃないか。
『最近はサワガニも持ってこないし
『心配していたんだが
『ぼくのほうも母親が入院したりして
『バタバタしていて!
『たずねてあげず!すまん。

「こちらこそ!ごめんね。

『やせたねぇ。
『ビョーキじゃないの。
『病院に行ったのかい。

「いや!そうじゃないんだ。
「魁くんにはいってみようか。
「笑わないでよ。

『え?!なんだって?
『ふ~ん!?そうだったの!
『すごくいい思いをしているじゃないか。
『ははは。

「笑いごとではなくなりそうなんだ。
「過ぎたるはなんとかだ。

『今度の休日は家でおとなしくしていたら。
『精子が枯渇するよ。

休日がきた。
魁飛(かいと)はなにか不安が去らず
翔飛(しょうと)をたずねた。

『翔ちゃん!

翔飛は家を出るところだった。

「和子さん!お迎え!ありがとうございます。

『なにをいっているんだ!おい!翔飛!

「すぐ行きます。
「はい!正子さんがお待ちかねですか。
「はい!はい!承知しました。

翔飛は魁飛の存在が分からぬようだった。
魁飛の脇をすり抜け
くるまをぶっ飛ばして行ってしまった。

宵の口になった。
魁飛が心配で翔飛の家に見に行くと
あがりがまちに翔飛が倒れていた。

『帰っていたのか。

疲労困憊(ひろうこんぱい)のようだ。

「正子さん!あなたは締め過ぎです!

『なにをいっているんだ!ぼくだよ。

「ああ!ここは!?
「あれ?どこをどうして帰ったのだろう。

『やっぱり!翔ちゃん!
『きみになにか悪いものが
『憑(つ)いているんだよ。


(6)


「魁(かい)くん!ぼくは怖くなった。

『翔(しょう)ちゃん!
『憑きものを落とそうよ。

「警察に行こうか。

『相手にされないだろう!

「いい思いをしたからな。

『そうだ!大蔵(だいぞう)が
『修験道にいると聞いたことがないか。

「だれだよ!大蔵って。

『大森大蔵!ほら!
『ドンガメとやりあったやつ!

ドンガメとはかれらの中学の担任。
亀山先生だが陰ではドンガメと呼んでいた。

「大ぼら吹きのやつか?

『なんの時間だったか
『将来の夢をはなしあっていたとき
『大蔵が!日本の初代の
『大統領になるといったじゃないか。

「虫のいどころが悪かったのか
「ドンガメが怒ったのだったっけ。

『まともな夢のはなしをしろ!なんてね。

『夢だから勝手じゃないですか。
『それをいうのなら!
『バスに 5 分乗っても酔うものが
『宇宙飛行士になりたい?!おかしいでしょ。
『100m を走るのに途中で息継ぎをするものが
『サッカー選手!ふざけているでしょ。
『そちらを叱ってくださいよ。

「大蔵はひるまなかったね。
「ぼくはこの国の大統領になって
「きみたちみんなを
「強制収容所にぶち込んで
「根性をたたきなおしてやる!なんてね。

『かれの意見に全面賛成はできなかったけど
『七面鳥のように顔の色を変えてどなる
『ドンガメを相手に小気味よさを感じたね。

『この際!藁(わら)をもつかむ思いで
『大蔵に相談してみようじゃないか。

「どこにいるんだよ?

『れいなに聞きに行こう。
『あいつ出もどって実家にいるはず。
『同窓会の名簿の管理をしているから。



「大蔵くん!元気だよ。
「リモートで加持や祈祷をしているよ。

『リモートで効力があるのかよ?

「ホームページがあるよ。

『なんだって!
『上席大阿闍梨だと?!

「じょうせきだいあじゃりというんだって。
「そう名詞にルビを刷っていたわ。

「2 年前にあったとき
「千日回峰を 2 回もしたといっていたけど。

『比叡山を
『1 日に 30km とか 60km とかを走って
『1,000 日する修行?!

「かれは裏比叡の寺だといっていた。

『比叡山の裏の山!?

「六甲山の裏らしいよ。

『まゆつばものだな。

「千日回峰といっても
「急峻なところなんかは
「ショートカットしていたらしい。
「長い距離のところは
「居酒屋のバイトの女の子をてなづけて
「電動アシスト自転車を用意させていたとか。
「いずれ!その自転車をやるからといってね。

『それで上席大阿闍梨の称号を得たのか。

「その肩書は勝手に創作したみたい。
「世間を煙に巻くことは会得したようだよ。

『ま!今!頼るものはかれしかいない。
『藁(わら)よりましだろう。


(7)


上席大阿闍梨はすぐやってきた。
大峰山の山伏と
四国八十八か所めぐりを
合わせたような衣装をしている。

「あ~!
「加持でも祈祷でも半額でしてやるぞ!
「同級生割り引きだ。
「さらに困っているものを
「紹介してくれたら紹介料をはずむぜ。

『実は翔飛が大変いい思いをして
『困っているんだ。

「魁飛!きみはふざけているのか。
「仲間に入れろよ!そのいい思いに。

「ふんふん!なになに!
「そうか!よし!
「おれがその正体をあばいてやろう。



休日の早朝
大蔵と魁飛は翔飛の体を押さえていた。

「あ!和子さん!すぐ行きます。

『翔ちゃん!しっかりしろ。

しかし!翔飛の体が半透明になって
ふたりの腕をすり抜けて歩き出した。

「出たな!妖しいヤツ!エイエイエイ!

『全然呪術がきかないじゃないか!

翔飛はくるまをぶっ飛ばして行ってしまった。

「おい!追いかけようぜ。

『追いかけられないよ。
『かれのように
『山道の幅員のないところを
『飛ばせる技術はないよ。
『しかも!あのくるまは四駆だよ。

『でも GPS 機器をつけておいた。

「でかした!ゆっくり追いかけよう。

『ホンダのスーパーカブ 50 で行こう。

「燃費が抜群!うれしいね。

『この際!燃費はどうでもいいけど。
『ああ! GPS !切られた!
『ケータイも切られている。

「どうする!?

『大丈夫!以前!連れて行ってくれた。
『夕霧川の上の沢あたりに違いない。



『あったぜ!翔飛のくるまが。

ふたりは渓流沿いの細道をたどれば
すぐ熊笹の茂みにあたった。

「ここにタヌキの親子が通れる道がある。

『さすがにじゃりさまは鋭い!

「ウラジロかぁ!
「正月前に刈り取って
「関西方面に持って行けば
「しめ飾りの材料として売れるぜ。

『じゃり!そんなことはいいから。

「さっきから!じゃりとはなんだ?!
「じょうせきだいあじゃりさまといえ。

『長いから略してもいいじゃないか。
『先を急ごう!どっちだろう。

「女の匂いがする!ウラジロをくぐろう。

『なんの音?!
『虫の声!?

「鳥かな?

『獣のうなり声!?

「これはよがり声だ!
「あっちだ!

雑木林の中に小さな広場があった。
ふたりは腰が抜けるほど驚いた。

『翔飛が!
『骸骨とシェックスしている~!

広場の真ん中で
横たわる人間の全身骨格に
全裸の翔飛が抱きついていた。

「出たな!亡霊ども!
「たてたて!よこよこ!まる描いて
「チョォオ~ン!

骸骨が消えた!?


(8)


「このあたりに 10 年に 1 度くらい
「干からびた男の死体が発見されている。
「翔飛!きみはもうすぐ
「精液を吸い取られて!干ものになるぞ。

「おれの修業した
「裏比叡の素頓寺(すっとんじ)は
「今はお堂だけだが
「帝国陸軍が第三の極秘の指令室を
「地下に造ろうとしていたところだ。

「極秘文書を寺に運び込んでいたとき
「終戦になった。
「寺と文書は焼却処分になった。

「が!物資不足の折
「村人が焼かれる前に文書を盗み出した。
「便所で尻をふく紙に流用するためだ。

「その一部が残存しているのだ。
「おれは千日回峰中にたいくつで読んでいた。

『きみの千日回峰は余裕があるのぉ。

「翔飛の出会った骸骨の女性は
「ウラン濃縮工場に
「勤務していた人たちに違いない!

『ウラン!?

「岡山県と鳥取県の県境の人形峠が
「あの夕霧川の源だ。

「人形峠は日本では稀有なウラン鉱山だ。
「帝国陸軍は地下 500m で
「原子爆弾の製造を試みていたのだ。
「極秘文書に書かれていた。

「終戦ですべてを闇に葬ることになった。
「地下工場と研究所は破壊された。
「放射能を浴びて
「廃人になったものもいっしょにだ。

「看護婦さん 8 名はそのとき
「逃げ遅れて死んだのだ。

「その無念さに
「亡霊になってさまよっているのだ。

「8 人の看護婦さんが満足したら
「当分!出てこない。
「でも!そのとき翔飛はミイラになってしまう。
「翔飛!今!なん人と寝たのだ。


(9)


「亡霊たちに翔飛をあきらめさせよう。

『どうすればいいのだ。

「翔飛の体に呪文と経文を書いておこう。
「般若心経の本を買ってきておくれ。

『覚えていないのかい!

「漢字は苦手!難しい字ばかりだ。
「法華経も書いておくか。
「ついでに阿含(あごん)経と
「涅槃(ねはん)経も買ってきて。
「なんまんだぶとも平仮名で書いておこう。

『じゃりどの!それはなに?

「下の略で呼ぶなといっているだろ。
「サンスクリット語かな。
「どこかの卒塔婆(そとうば)にあった。

『知らないのに!書いて大丈夫?!



「なにをしてるの?!

『あ!きみは翔飛の元・奥さん!

「まだ!戸籍上は妻だわ。

「にぎやかそうだから寄ってみたのよ。
「わぁ!すっぽんぽん!
「体中に落書きされている。

「あら!結構りっぱな
「おちんちんしてるじゃない!

『さわるんじゃない!

「いいじゃないの!まだ夫婦だから。



「ほういちさま~!

『出たな!空気が妖しく揺れている。

「ほういちさま~!どこですかぁ!?
「和子さん!私のほういちさまがいません。

『よく探しましょう。
『私のしょういちさま~!

「和子さん!これは!?

『まさしく!しょういちさまのマラ!

「ということは
「今日だけは私のほういちさまのマラ!?

『マラしかないわね。
『とりあえず!
『マラだけ持って帰りましょう。

「あああ!マラが引っ張られる~!
「マラがちぎれる~!

『奥さん!あなたが握って
『マラの頭の梵語を消してしまったから
『亡霊に見つかったじゃないか!

「押さえろ!みんなで翔飛を押さえろ。

亡霊と引っ張り合った結果
鮮血が飛び散った。

マラを盗まれてしまった。


(10)


それから亡霊は出なくなったけど
翔飛は「マラなし」になった。

マラをちぎったのはだれだか
今となっては分からないが
「ほういちさま」と
かの女は思いの人の名をいっていた。

それで翔飛は
「まらなし ほういち」とも
呼ばれるようになった。

それから!オカマでもないのに
荒淫の果てにマラを失った人も
そう呼ばれるようになった。



以上!フィクションです。
私の経験ではありません。
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