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初秋のあだし野念仏寺 [はなしのはなし 食えぬ梨]

清滝に向かう道がゆるやかにのぼっている。

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人が絶えている奥嵯峨。

「一之鳥居まで行ったよね。

かの女がいった。

「茶店でおだんご!食べたのだった?

ぼくはことばをさぐりながらいった。

ふたりでは 1 度しか歩いていないはず。
愛宕山の往復やら
高雄からくだったり
保津峡に抜けたり
いろんな人と!もちろん女性とも
なん度も通っていた道だったので。

女性の高い声が連続して聞こえた。

化野(あだしの)念仏寺の参道の石段に
老婆 3 人のグループがいた。
ひとりの老婆が倒れている。
頭から出血しているようだ。

「救急車をお願いします。

偶然!近くを通っていたらしい
ふたり組の老爺のうちのひとりが
ケータイで叫んでいた。

「70 くらいのおばあさんです!

と!おじいさんが叫べば

「82 歳です。

連れのおばあさんが訂正しているのが
不謹慎ながらくすりと笑えた。

「どうしよう。

かの女がいった。

「なにもできないから!失礼しよう。

なにもできないものは
この場にいないほうが
よけいな混乱がないと判断したのだが
ぼくはあい変らず
思いやりのない性格だなと
少し恥ずかしく思った。

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化野念仏寺は
「あだし野念仏寺」と表示してある。
現代風なのか!なんなのか。

自動販売機で
ひとり 500 円の拝観券を入手する。
こんなひなびた場所なのに自販機。
なんだか心が緩んだ。

たぶん!少し前までは
内外の観光客が押しかけていたのだろう。

夏が終わっていた。

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「み~ちゃん!元気?

かの女がいった。

「ん。

み~ちゃんはぼくの妻になっていた。

バイト先がいっしょだったので
かの女とみ~ちゃんともうひとりの女性と
4 人で連日のように
安居酒屋で長時間飲んでいた時期がある。

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「スカートの風(呉善花著)を
「貸してくれたよね。

「そうだった?

「処女と非処女との価値が
「月とスッポンほどの差があるんだよね。

「そうなの?

「読んでないの?

「忘れた。
「でも!それ!韓国のことでしょ。

「あたし!処女だったよ!あのとき。

「おれだって処女だったよ。

「武田鉄矢かよ。

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ぼくは大学に入学してすぐ
映画愛好会に入ってしまった。
かの女もその会にいた。

3 月ほどで
ビデオと DVD を一生分ほど観た。

その中に「幸福の黄色いハンカチ」
(山田洋次監督)があった。

しつこくせまる男と拒む女の場面。
桃井かおりが
「わたし!処女じゃない」といったような。
武田鉄矢が
「おれも処女じゃない」と答えたような。
そんなセリフだったような。

そこでなぜかみんなが笑った。
ストーリィもなにも忘れているのに
そこだけ覚えているのがおかしい。

かの女は会長の先輩女性の
意にさからって!脱会した。
その後!ぼくも会費未納でやめさせられた。

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「初体験同士が結婚するのが
「結局!一番都合がいいんだって。

「ん。

「わたしといっしょになる?

「ん。

「み~ちゃんと別れられる?

「ん。

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「最期はみんな野ざらしよね。

「ん。

「これがみんな墓石なら
「墓石を置いた人が寂しがってる。

「ん。

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竹林の高いところで風が泣いた。

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「わたし!どうして
「変なことばかりいうのだろ。

「どうしてかな。

六面六体地蔵さまがおわします。

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「六道の世界にいるのね。

「だれが?

念仏寺の参道に出ると
なにごともなかったように
静寂の石段があった。

「どうして今日
「人影のない嵯峨野なのに
「あなたと出会ったのだろ。

「どうしてかな。

八体地蔵のある分かれ道まで降りてきた。

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「祇王寺(ぎおうじ)に行くから。
「あ!もういいよ!ひとりで行きたいから。

「じゃ!おれ!
「寂庵(じゃくあん)のほうへ行くよ。

「ばいばい。

「あ!あのね!わたし!
「いっしょに住んでいる人!いるんだよ。

「そ。

「あのね!男の人じゃないの。
「女性だよ。
「そんな仲だよ。

「そ。

「わたし!どうしてこんなこと!いうのだろ。

「どうしてかな。

「ばいばい。

「じゃ。

「あ!寂庵に行っても入れてくれないよ。

「ん。
「田んぼの中を通って釈迦堂に行くから。

ふり向くと
遠ざかるワンピースがやけに白い。
反射的にカメラを構えた。
かなりピントのはずれた画像が 1 枚!
撮れただけだった。



(敬称略)
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