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いいえ [はなしのはなし 食えぬ梨]

山村にはこれといった娯楽がなかった
遠い日のことでございます。

わずかでも酒を飲んでくつろげるのは
盆と正月に祭ぐらい。
葬式と結婚式もそうですが
これはいつくるのかあてにはなりません。

昼間は重労働で
夜には縄をなったりの夜なべ仕事でも
若ものは元気です。

夜は
「夜這い(よばい)」に行かねばなりません。

村にひとつ!神社があります。
神社といっても宮司がいる訳でもなく
村人がささやかな神事をしながら
守っているだけの社(やしろ)ですが。

神社の横に集会所があります。
6 帖ほど。
真ん中に炉があるだけの小屋。

そこに三々五々若い男が集結。

「おれ!今夜は
「上のカヤのおかつに行ってみる。

“上のカヤの”とは
“村で一番高い場所にある”
“カヤ刈りの丘のそばにある家の”という意味。

あそこは親父が」
割り木を持って立っていないか」

「それは宵の口まで!
「すぐ眠くなるようで!すぐいなくなる。

「赤沼の後家は親切で
「ハラ減ってないかと心配してくれるぞ。

“赤沼の”とは
“秋に紅葉する草が生い茂っている”
“沼のほとりの家の”ということ。

赤沼の後家はちんぽこをよく洗えだとか」
頭が臭いだのとうるさいけどな」

「尼寺に若い尼さんがきたな。

いの一番に庄屋の隠居が行ったぞ」

「もう!枯れたのでなにもいらない。
「骨董品収集だけでいいといっていたのでは。

毎日!お供えを持って探りに行き」
庫裏(くり)の木戸の開け方と」
若い尼さんの寝室をつきとめたらしい」

そんで首尾よくしのびこみ」
たっぷりと!しつこく!しつこく」
若い体(!)をもてあそんだら」
行灯(あんどん)がついた」

たっぷり抱いていたのは」
還暦の庵住(あんじゅ)さんだったそうな」
しのびこんでくるのを察していて」
寝室を交換していたそうだよ」

『ご隠居は骨董品の目利きを』
『日ごろ自慢されてますが!あやしいもの』
『女体の骨董品の目利きもできないで』

なんて皮肉をいわれたそうだ」
隠居!急激に腰を使い過ぎて」
今!腰が立たないらしい」

若ものはそれぞれの
今日の目的地に散って行きました。



村で一番偏屈な和吉は
夜なべ仕事をしています。

和吉!藁(わら)を打ちながら」
本を読むのは体に悪くはないか」

「おれ!本が好きだ。
「隣の村のお寺から論語を借りてきた。

村の若い衆はみな」
神社に集まっているじゃないか」
行ってみたらどうなんや」

「みな!夜這いのことばかり相談しておる。

それも大切なことじゃないかと」
おっかぁは思うけどな」



「そうだな。
「今夜ぐらい行ってみるか。
「西のくるまのおまつなら
「なにかと問題のありそうな娘だから
「だれも行ってないだろう。
「だから生娘かも知れないな。

“西のくるまの”とは
“村の西にある水車小屋の近所の家の”
ということですよ。

「おまつ!起きてるか?

だれ!?」
和吉かぁ!わし!待っていたんや!」

「待っていた?

いつか和吉がきてくれると夢に見ていたんや」
うれしい!うれしい!うれしい」

「そうきつく抱きつくんじゃない。
「おれもうれしいぞ。

わし!器量が悪いやろ?」

「人は心!心の美しいほうがいいよ。

わし!頭が悪いし」

「女は愛嬌があるのが一番だよ。

わし!仕事が遅いし」

「一生懸命やればいつか
「カメはウサギに勝ったりするよ。

わし!男を知らないから」
和吉!たっぷり教えて」



「可愛かったなぁ。
「なかなかいい女じゃないか!おまつは。
「生娘だったし。
「今夜も行ってみよう。

「ああ!ぴったり張りついてくる柔らかい肌!
「たまらんなぁ。
「あしたも行こう。

「あの子にするか女房には。
「うぶで愛らしく!純真で!すなおで。
「なまじ中途半端に賢い女は扱いにくい。

おい!和吉」
なにかいいことがあったのか」
全然!神社には顔を出さないが」

「あはは!ないよ。

なんか明るいのぉ」
夜這いでも行ってるのか」

「まぁ。

いいことだ」
おまえは興味がないと思っていたのだが」
どのあたりまで行っている?!」

「どのあたり?

まだ!尼寺までは到達してないだろ?」
おまつは卒業しただろうけど」

「おまつ!?

ああ!だれにもやさしい!床(とこ)上手の」

「床上手?!

おまえ!行っていないのなら行きなよ」
だれにでもやさしいから」
だいぶ!淫乱!いや!相当な淫乱だ」
それが遊ぶにはたまらん」
女の体を堪能させてくれるぞ」

村の老若!みんな相手に困ったら」
おまつ頼みにしておる」

おまつを卒業してから」
いろいろクセのある女や」
上品ぶった女に進み」
そのうち自分好みの女を見つけようぜ」



こちらはそのおまつの家。

あにさん!帰ってきたのかえ」

「背中に深手を負ったからしばらく養生じゃ。

しま(縄張り)はもらえたのか」

「街のヤクザになるのも大変だった。
「実力主義がフツーの社会よりきつかった。
「後悔先に立たずだわい。

「でいり(紛争)の先頭ばかり立たされていて
「毎日!切った!はった!ばかりだ。

「ところでおまつ!村の男どもが
「おまえを公衆便所といっているのはホントか!
「おまえは三女だが便所じゃねぇ!

「可愛い末の妹を性欲処理だけに使うやつらは
「おれが許さん!



和吉は分からなくなりました。

「おまつはそんな女だったのか。
「生娘だと思ったのに
「村の男!全員と寝ているとな。

「いいや!違う。
「決して淫乱なんかじゃない。
「おれの胸に顔をうずめて
「しあわせそうに眠るじゃないか。

「今夜はそれとなく聞いてみよう。

「ん?!だれかきた!
「隠れよう。
「あ!うちのじいさんじゃないか。



「おい!和吉のじいさんじゃないか。

なんだ!なんだ!?」
ごろぞうか!帰っていたのか」
しまは取れたか」

「おまつに用事か。

いや!その!あの!」

「じいさん!おれ!でいりに明け暮れて!
「夜は夜であねさんの相手をさせられて!
「こんな立派なちんぽこになったぜ。

そ!そうか!よかったな」

「それに男色(おかま)好きの
「兄貴たちにも気に入られて
「そっちも上達したぜ。
「見せてやるよ。

ああ!ごろぞう!やめろ!やめろ!」



「じいさんが尻を押さえて帰って行くが。
「あ!つぎにだれかきた!
「うちの親父じゃないか!

「親父もおまつと!?
「知らなかったなぁ!

「あれ?親父も
「ふんどしをなびかせて走って逃げて行く。

「なにがあったのか知らないけど。
「おまつ!おまつ!

おい!和吉じゃないか」

「ごろぞうあにぃか。
「出世したのか!貫禄ついたね。

おまつに会いにきたのか」

「そうなんだよ!

おまつの体が目的だな」

「それは違う!
「お互いに好き合ってしまって!
「まじめなつきあいなんだ。

ウソをつくんじゃねぇ!」
妹をなぶったヤツは許せん!」
ケツを出しな!おしおきだぁ!」



和吉の家の朝めしどき。

今朝はどうしたんだ!?」
男 3 人!青菜に塩みたいじゃないか」

じいさん!目が泳いでおるな!」
ゆうべ!西のほうへ行ったようだが」
なにかあったのかえ?」

「いいえ。

なんだぁ?!女々(めめ)しいいい方だの」

おっとうも西のほうから帰ってきたが」
なにかあったのかえ?」

「いいえ。

女形(おやま)になったみたいだの」

和吉!くたびれた足音で帰ってきたが」
なにかあったのかえ?」

「いいえ。

婚礼の夜の花嫁みたいな声を出すんじゃねぇ」



おかしいな」
3 人ともおかしい」
ゆうべ!西のほうに行って」
おかしくなっている」

ははぁ!西のくるまのおまつと」
なにかあったんだな」
おまつに聞いてみよう」

「おっかぁ!和吉のおっかぁじゃないか!

ごろぞうか!帰っていたのか」

「なつかしいな!
「おれの筆おろしをしたおっかぁ。

そうかぁ?」
わし!おまえが」
若もの組に入るときに行ってないぞ」

「おれたちの若もの組に入会のときの
「最初の大事な筆おろしの儀で
「教えてくれる後家がそろわなかったんだ。

「そこで!おしげばばぁがしゃしゃり出て
「自主的に加わったんだな。
「ホントよけいなことはやめてくれよな。

「くじ運が悪かった!
「おれが!おしげばばぁにあたってしまった!

「筆おろしした気分になれなかったら
「つぎの日に麦畑で会ったおっかぁが
「あらためて筆おろしをしてくれたんだ!
「ていねいに!やさしく!時間をかけて、、、。

「ありがとな。

そんないきさつだったかいの」

「あれから 13 年!見てくれ!
「こんな立派なちんぽこになったよ。
「おっかぁ!さっそく試してみてくれ。

ばかいうんじゃない!こんな朝っぱらから」

「おっかぁ!故郷に錦だぁ!

あああ!やめろ!やめろ!」
感じるじゃないか!」

「おっかぁのあそこ!いつまでも若いのぉ。

うそこくんじゃねぇ」

「ほんとだ!
「おれ!多くのあねさんに奉仕させられたが
「おっかぁのあそこは今も若妻のようだ。

口がうまくなったじゃないか」
ほんとにそうかぁ!うふ」



「どうしたんだ!どこへ行っていたんだ。
「おっかぁ!もう!昼になったぞ。
「昼めしにしようぜ。

「なんか変だな。
「なにかあったのか?

いいえ。うふ」
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