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かちかち山 熊は濡れ衣 [はなしのはなし 食えぬ梨]

「おとう!なかなか女をつかまえられぬのぉ。

村のやつら!おらたちを警戒するからな」

「ばあさんがひとりおるぞ。

あれでいいか!今日は」
女のあそこは若いのも古いのもおなじだろ」

「おい!ばあさん!やらせろ!

なにをするんだ!」
恥ずかしくないのか!」
庄屋さまにいいつけるからな」

「庄屋~!
「おとう!まずいな!

ばあさん!そんなことをしたら!こうだ!」
しめ殺すぜ!」
ああ!首が折れた!」
ちょっと押さえただけなのに」

「おとう!ばあさんが死んだぜ!

熊がやったことにしよう」
そこの三つ鍬(みつぐわ)で」
がんがんとたたいておけ」

三つ鍬とは先が三つの爪状になっている
備中鍬(びっちゅうぐわ)のことです。

血のついた鍬は谷に投げ込んで逃げよう」



なんて!むごいことを!」
熊におそわれたのだろうか」

「おじいさん!熊じゃないですよ。

おお!隣のうさぎちゃんか」
おばあさんが!おばあさんが!」

「これは人間のしわざです。
「熊の爪跡はこんなに開いていません。

「それにここなん日も熊は出ていません。
「昼間うろうろしていたのは
「タヌキ父子(おやこ)だけです。
「あの好色!ふしだらな
「やつらのせいに違いありません。

「わたくしの父が浪々の身になって
「領主さまのはからいで
「ここに荒れ地をいただいてから
「おばあさんにはお世話になりました。

「開墾の過労で母が死んでから
「おばあさんには母のように
「特に親切にしていただきました。
「カタキをとります!
「きっととります!

あいつら!庄屋さまの分家だ」
証拠もないのにうかつなことをいうまいぞ」



先代の庄屋には 3 人の息子がいました。

惣領は品行方正で温和な性格で
庄屋は安心して家督をゆずりました。

三男は学問好きで
だれとでもうちとけられるやさしい人柄に
隣の村の庄屋に乞われて婿養子になりました。

問題は次男のたま吉!
勉強嫌いで!仕事嫌い!
嫌いというより理解する力がないようで
わがままし放題に育ち
ただ!女を襲うことしか興味を示さない
愚鈍な淫乱男。

困った庄屋は
1 町歩の田んぼをつけて分家させ
家を建てて嫁をもらってやったのですが
嫁さんはいぬ吉を産んだらすぐ
愛想をつかして出て行きました。

本家から使用人がきて家事や育児をし
田んぼはすべて小作人にまかせ
たま吉はあい変らず
「おんな!女!」と徘徊していました。

1 町歩といえばほぼ 1 ヘクタール。
現代!この面積では稲作と裏作だけでは
生活が苦しいでしょうけど
猫の額ほどの土地も持たない家が多い村では
豊かなほうでした。

それから 15 年!
息子のいぬ吉も父(おや)に似て愚鈍で
色気だけは人のなん倍もあって
父子で日夜
「女!おんな!」と走り回っています。

だれもたま吉とかいぬ吉とか呼びません。
タヌキとかタヌキ父子とかとあなどって
毛嫌いしています。



「おじいさん!
「わたくしのうわさを立ててください。
「あそこがよくしまるとか!なんとか。
「タヌキ父子が寄ってくるように。

うさぎ!それは危険じゃないか」

「大丈夫です。
「武士(さむらい)だった父に
「厳しくしつけられました。

「剣術!柔術!唐手(からて)!を仕込まれ
「並の男には負けません。



「おとう!うさぎのあそこは
「よくしまるらしいぜ。

去年!狂った犬が暴れていたとき」
かかとで 1 発!蹴り殺したからな」
あの足なら!足のつけ根はしまるぞ~!うひひ」

「しかし!簡単に近づけないぜ。

すきを見つけて」
ぐさっとイチモツを差し込めばいい」

女はな!いくら騒いでいても拒んでいても」
差し込んだら!急に力が抜けるんだ」
あはん!だ」
うふん!だ」
すぐ!うっとりしてしまうんだ」

「そうかぁ!あはんといわせようぜ。



お!うさぎとじいさんが山に行くようだ」

「山の中では人目もないな。
「ふたりがかりなら押さえつけられるぜ。

おい!うさぎ!なにをしておる」

「タヌキ父子か。
「たきぎを拾いだ。
「おまえたちは拾わぬのか。

おらの家では」
本家から持ってくるからいいのだ」

「おじいさん!そろそろ帰りますか。
「帰って!父の作った笹茶を飲んで
「ぼた餅を食べましょう。

「おまえたちも笹茶!飲むか。

飲ませてくれるのか?」

「その代わり!
「このたきぎの束!持って降りておくれ。

おお!それくらい!よしよし」
おい!いぬ吉」
向こうから差し込まれにきたぞ!うはは」
かつげ!かつげ!」

「なんだ!ひとつじゃだめだ。
「男だろ!よっつは行け。

重いのぉ」

「おとう!ここがしんぼうだ!楽しみの。

おお!そうだ!へへへ」



「おじいさん!火打ち石を。

カチカチ!かちかち!

なんの音だ!?」

「ここには昔からカチカチ鳥が棲んでおる。
「知らないこともあるまい。

し!知ってるわい!それぐらい」

「カチカチ鳥の夫婦が鳴きかわしておるのだ。

ぼ~!ぼ~!

なんだ!なんだ!?」

「ここはぼ~ぼ~山だ。
「こだまが返っているのだ。

ああああ!あちあち!熱い~!」
たきぎが大火事だ~!



「おとう!なんだったのだ!あの火事は。
「背中が大やけどになった。

ぼ~ぼ~山はときどき火を吹くと」
うさぎがいっていたが」
たきぎを拾いに行かぬから知らなかったな」

「おじいさん!タヌキ父子に
「唐辛子味噌を持って行きます。

大丈夫かえ」

「大丈夫です。
「頬かむりして行きますから。

「こんばんは。
「本家からきました。

見なれぬ顔だの」

「3 日前に雇われました。
「庄屋さまがこの塗り薬を
「お持ちするようにとのことです。

ああ!そうか」

「南蛮渡来の薬だそうにございます。
「塗るとしみるそうです。
「強くしみるほど!
「よく効いている証拠だとか。

分かった!ごくろうさん」

「おとうからさっそく塗ってやる。

ぎゃあ!いたい!痛いのなんの!」

「効いているな。

おまえにも塗ってやろう」

「ぎゃぁ!あああ!よく効くのお!



「おじいさん!お団子を作りたいのですが。

米はないよ」
年貢に出して!残りもおカネに替えたから」
小米!青米!割れ米しかないよ」

「わたくしの家でもおなじです。
「それで作りましょう。
「ムカゴや栗や
「里芋を混ぜてごはんに炊きましょう。

「ごはんに小麦の粉を少し入れて丸めて
「串にさして!塩をふって焼きましょう。

「こどもたち!みんないらっしゃい。
「お団子!あげようね。

「お願いがあるんだけど。

ん!なんでも聞くよ」

「家の手伝いの合い間でいいから
「どんぐりを拾ってきてほしいの。
「また!夕方にお団子を焼いておくから。

「大きな子は叺(かます)に 3 分くらいね。
「小さな子はザルに半分くらいでいいから。
「どんなどんぐりでもいいよ。

うさぎ!どんぐりをどうするのかえ」

「今年は山の木の実やどんぐりが不作です。
「熊にあげようかと思います。



数日でどんぐりが
土間からあふれるように集まりました。

大滝の下流に
谷川の幅が広くなっているところがあります。
流れがゆるやかになり
小さいけれど砂浜ができています。

「おじいさん!
「あそこにどんぐりをまきましょう。

すぐに熊がやってきました。
毎日まくと
入れ替わり立ち替わり熊がやってきます。
熊は冬ごもり前に
たくさん食べなければならないのです。

だんだん「密」になると
熊同士のあつれきを生じ
特にオスとオスが鉢合わせすると
双方!興奮状態!一触即発状態。



「ひどい目にあったのぉ。

やけどを治すのに長い間寝てしまった」
そろそろ!うさぎを押さえ込みに行こうぜ」

「お!うさぎとじいさんが川におるぞ。

なにをやっておるのだ!?」

「泥団子を作っておる。
「魚を獲りに行くのだ。

「渕に泥団子を放り込めば
「魚がエサと思って寄ってくるのだ。
「それを網ですくえばいくらでも獲れるぞ。

「おまえたちもどうだ。
「たくさん獲って
「いっしょに焼いて食べないか。

おお!そうか」
おらたちも獲りに行くか」

「漁師さんがその黒い舟なら
「貸してやるといっておったから
「どうだ!?

よし!行くぞ」
玉網は本家から借りてこよう」

「泥団子を半日乾かしておくといいぞ。
「明日!魚獲りで競争しよう。

おい!いぬ吉!泥団子を作れ!作れ!」

「うさぎは 5 個ばかり作って帰ったな。
「おとう!おらたちは 100 個は作ろう。
「うさぎを負かせて!うふふ。

そうだ!参ったといわせて」
ぐさっと差し込めば!あへあへだ!」
たっぷり楽しもうぜ」



「なんだ!えらくたくさん泥団子を積んだな。
「舟が沈みそうだな。

ははは!参ったか」

「上(かみ)の一の滝あたりは
「大きい 2 尺ヤマメが寄ってくるぞ。
「でも!そんなに数はいない。

「下(しも)の大滝には
「7、8 寸のウグイばかりだが
「水の底が見えないほどおるぞ。

「ただし!競争は数ではなく目方でやろう。

う~ん!?」
いぬ吉どうする?!」

「小さくてもいくらでもとれるほうが
「重さでは勝つよ!おとう。

よし!おらたちは大滝に行くぞ」

「なるべく深いところに
「泥団子を投げるのがコツだな。
「滝の落ち口がいいぞ。

分かった」

穴が開きそうだから漁師が放棄していた
古い舟に乗って
タヌキ父子がこぎ出しました。



滝つぼだ!泥団子を放り込め」

「魚がこないな。

水の落ち口がいいのだろう」
あそこが深いから」

「よし!そっちに行こう。

おいおい!滝に突っ込むんじゃない!」
あああ!もう遅い!」

落ちる水を真下に受けて
朽ち舟はバラバラになってしまいました。

タヌキ父子は水底から浮き上がりましたが。

「おとう!大丈夫かぁ!

滝つぼから出よう!そっちに泳げ」

滝つぼから出ると急流です。
たちまちふたりは流されて行きます。



2 町(≒ 200m)ばかりで砂浜に到着。

「やれやれ!助かった。

「ぎゃああ!

気が立っているオス熊が
口から泡を吹きながら突進してきました。

ぎゃあ!
今度は熊が叫びました。

かめば!
あまりにも渋くて臭いタヌキの肉!

ペッペッ!
熊が急いで川の水でうがいをしていたら
足元におばあさんを刺した三つ鍬が
流れ着いていました。

熊はそれを拾いあげると
なぜか無性にハラが立ってきて
タヌキ父子の息の根が止まるまで
それで打ちつけておりました。
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