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シオマネキ恐竜がいた! [はなしのはなし 食えぬ梨]

大阪市立自然史博物館の
1 階の第 2 展示室。
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「地球と生命の歴史」と称して
動物の化石が展示されています。

「ハトやスズメは恐竜の子孫だよ」

小学低学年の兄弟(たぶん!)が
勝手に近づいてきて教えてくれます。

「へ~?鳥脚類の恐竜だったの!?

「違うよ!鳥は獣脚類だよ」

へ~!?そうなんだ。
でも!なんでハトが「獣」なんですか?!
基本的なことなんでしょうなぁ。
尋ねるのも恥ずかしい気がして黙します。

「アロサウルスは白亜紀の恐竜」
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ジュラ紀とも書いてありますが。
ま!質問はひかえます。
白亜紀もジュラ紀も区別がつかないものは。

それにしても
小さいくせによく知ってやがる。
ただ!避暑のため紛れ込んで
ぼんやりしているおとなに
レクチャーするんじゃありません。



あ!霧がたちこめて
閃光が 2 度 3 度!

「おい!おまえたち!」
「それはアロサウルスの」
「ホントの姿じゃないぞ」

天上から声がします。

「なん度も訂正をしているが」

「そもそも!その種じゃなく!個体 1 体が」
「完全にそろって出てきた化石が」
「なん体あろう!」

「あなたはどなた?!

「おまえたちの先輩だ!地球の」

「ひぇ~!?

「テリジノサウルスだ」

「あ!知ってる!
「恐竜界最大の 1m の爪を持ってる!

児童が答えます。

「そうだ!」
「7,000 万歳だ」

「しかし!おれの復元図や模型はなんだ!?」
「足の短いデブのダチョウが」
「胸にバカでかい爪を出しているような姿」

「全長が 10m だったり!その倍だったり」
「腕が 2m だったり 5m だったり」



「おれが最初に目覚めたのは 1948 年」
「モンゴルの白亜紀の地層から」
「旧ソ連の連中が掘り出した」

「3 本の爪がついた腕らしいものだけ」
「不完全な爪の骨芯だ」
「爪だけで推定 1m もの大鎌形だ」

「かれらはおれを巨大なウミガメとした!」
「怒るで~!横山やすしなら」

「どうして海から遠い内陸のモンゴルに」
「ウミガメが棲んでいるだろうか?!」

「しかし!長く眠り過ぎた」
「おれは昔の姿をはっきり思い出せない」



「あの大きな爪はナマケモノだ」
「つぎに復元を試みたものがいった」

「2.5m 以上の前足のナマケモノ!?」
「考えられるか?!」
「そうなら!体重がなんトンある?!」
「それがぶらさがる!?」

「でも!白亜紀は樹木の大きさも
「天をつくほどじゃなかったのですか?!

「そうだとしても」
「種が保存できるのなら」
「最低!なん万頭いるのだろう」

「5 万頭でも危ない」
「すると!数十万頭の巨大なナマケモノが」
「ぶらさがっていなければなるまい」
「想像できるか!?」

「だいたい!ナマケモノの仲間は」
「白亜紀の後に出現したはず」
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「ああ!まだ思い出せない」



「あの大爪はアリ塚を壊すためだ」
「つづいて大アリクイ説が出た!」

「1m の爪があれば壊しやすいだろう」
「が!当時のシロアリは」
「どのくらいの大きさだ?!」

「30cm もあるシロアリが」
「30m ほどのアリ塚を」
「造っていたのならともかく」
「今とおなじくらいのシロアリだったら」
「一体なん匹のシロアリを食えばいいのだ!」

「体重 5 トン以上のアリクイが」
「体重の 1 %のシロアリを要求したら」
「50kg 必要!?」
「体重の 2 %なら 100kg ?!」

「ああ!やめてくれ!それはおれじゃない!」



「あの爪は肉食獣だ」
「なんとなく説得されそうな説が出た」

「もし!ティラノサウルスのような」
「トカゲ形の凶暴なヤツだったら」
「体長 20m のレーシングカーだ」

「大木にぶらさがる大ナマケモノも」
「見てみたい気がするが」
「白亜紀の草原を疾駆する」
「8 階建てビルほどの大トカゲはすごそうだ」

「しかしね!肉食獣の爪のように」
「重量感がないんだ」
「かれらの爪が出刃包丁なら」
「おれの爪はカミソリ並み」
「厚みが全然ないのだ」

「やっぱり!おれは肉食獣じゃない」



「それで今は首の長いバカでかい恐竜だ」
「短い後ろ足で立ち!歩き」
「1m もの爪のある巨大な前足で」
「大木の枝をたぐり寄せて食べている」
「想像図に落ち着いている」

「思い出してきた!」
「そもそも!おれの爪以外が」
「出てこないのはなぜか?!」

「出ているのだ!いくつかは」
「それは別の恐竜のものとして」
「片づけられているのだ」

「おれはシオマネキ形の恐竜だったような」

「あの!シオマネキはカニでは?!
「そもそもシオマネキのような甲殻類は
「外骨格では?!

「種には関係なく環境で似た形になる」
「収斂進化(しゅうれんしんか)というものだ」

「哺乳類のクジラと」
「魚類のマグロが似た形だろう」

「昆虫のオケラと
「哺乳類のモグラのようにですか?

「そうだ!」
「おれは胴体より大きい爪を持っていた」
「もちろん!求愛のためだ」
「おれたちシオマネキ恐竜は」
「繁殖期に一斉に」
「自慢の大きな爪を振っていたのだ」

「その後!格闘だ!」
「恋がたきの腕が取れるまでやらねばならない」

「それで落とされた爪だけが出てくるのだ」

「勝ったものはメスと交尾だ」
「しかし!じゃまになるので」
「メスがオスの大きな爪をかみ落とした」

「ま!決闘に負けて爪のなくなったオスも」
「ちゃっかり横から交尾に加わったものだが」

「交尾が終わったら!即!死んだのだ!オスは」
「だから大きな爪がついた個体はない」

「こどもは小さな爪だったのだ」



「地球の生命は」
「大繁栄と大量絶滅をくり返してきた」

「特に大きな大絶滅の」
「5 回めの犠牲者がおれたちだ」

「それから 6,600 万年!」
「6 回めの生命大絶滅が近い」
「もう!始まっている」
「ヒトの自然破壊がおもな原因だ」

「そして 1 億年もしたら」
「つぎの知的生命体が」
「大量のヒトの化石を掘り出して」
「こねくり回してくれるだろう」

「1 億年後に繁栄する知的生命は」
「おれの予想では骨格がないような」
「タコとかナメクジに似た生物」

「おまえたちがおれの化石から」
「とんでもない推察をしてくれたように」
「軟体生物がおまえたちの化石から」
「どんな復元をしてくれるか」
「楽しみにして滅びろ」



いつの間にか霧が晴れています。
児童たちは親といっしょに出て行きました。

再び展示室は静寂の中。
外は暑い夏。



(敬称略)
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